ウッドホーンに使用する材料について

ここでは,ウッドホーンにはどのような材料が適しているかを考えてみます。

先ずは,ウッドホーンに使用されそうな木材の特徴を表にまとめてみました。 「比重」は材料の重さをあらわし,数値の大きい方が重くなります。 重い方がドライバの不要振動を制する効果がありますが,ドライバ自体におもりを抱かせるなどの処置をすれば,比重の大きい材料を使用したのと同じ効果が得られます。 「ヤング率」は,主に曲げ易いかどうかをあらわし,数値が大きい方が曲げにくく硬い材料と言うことになります。 数値が大きい,すなわち硬い材料の方が共振を起こしにくいとも考えられますが,柔らかい材料の方が内部損失が大きい(振動を吸収する)ことも多く,どちらが優れているかは断言できません。

材料 比重 ヤング率 特  徴
コクタン 0.85〜1.09 13.5〜20.2 重く硬く密度があるが高価
アピトン 0.75〜0.91 16.2 加工は難しく装飾的要素の無いもの向き
アサダ 0.60〜0.88 17.6 重硬で切削性悪いが仕上がりは良い
ホワイトオーク 0.72 14.1 カシではなくナラの仲間で重硬だが狂いは出る
ミズメ 0.60〜0.84 13.7 ミズメザクラと呼ばれるがサクラとは別物
ホワイトバーチ 0.72位か? 13.8位か? フィンランドバーチと称する合板が入手でき,スピーカー用として珍重されている
イエローバーチ 0.71 13.8 硬いがほぼ均質のため加工容易で仕上がりは良い
ハードメープル 0.71 12.8 強く磨耗性が高いが対朽性に難あり
レッドオーク 0.7 12.4 硬く重い
ラミン 0.65 14.2 加工容易で仕上がりがよいが保存性低い
イタヤカエデ 0.58〜0.77 11.8 やや重硬で加工は難しいが仕上がりは良い
ブナ 0.65 11.8 加工性は中庸だが狂いやすい
チーク 0.63 12.3 強く対朽性があり安定している
カリン 0.52〜0.81 10.4〜12.1 安定しているが高価なためあまり利用されない
アカマツ 0.52〜0.62 11.3 変色があるので見えないところ向き
ベイマツ 0.51〜0.55 11.8
マホガニー 0.51 10.4 加工容易で仕上がりがよい
イチイ 0.41〜0.51 7.8 切削しやすいが小型のものが多い
ラワン 0.38〜0.64 11前後かな? 加工は比較的容易
アガチス 0.46〜0.52 11.3 年輪ははっきりせず比較的均一で加工容易
ラジアタパイン 0.44〜0.49 8.3 節が無い部分は加工容易

考  察

制振効果が期待できる「比重の大きい材料」としては,「アピトン」「アサダ」「オーク」「ミズメ」「バーチ」などが考えられます。 いずれも重く硬いため,加工は楽ではないでしょう。 「タモ」もかなり硬い印象がありましたので,このグループに入るかも知れません。 オークやタモで作ったウッドホーンがあれば,要チェックかも知れませんね。 素直でダイレクトな音を出したいときには,こちらのグループでしょうか。 但し「シナ・アピトン合板」となりますと,比重・ヤング率とも低下するでしょうから,このグループには入らないと思います。
逆に,柔らかく加工性が良い(仕上がりは一般に硬いものの方が良い)ものとしては「ラジアタパイン」「ラワン」「イチイ」「ベイマツ」「アカマツ」などをあげることが出来ます。 このグループは,どちらかと言うと柔らかいだけに高域での内部損失が期待でき,いわゆる「ホーン鳴り」,「ホーン臭さ」が少なくなるように思います。 高域をおとなしくしたい場合には,こちらのグループでしょう。 しかし,軽いだけに「ドライバからの直接振動」には弱く,制振効果以上に共振してしまう危険性もあります。 なお,ラワンの合板などは,木目を90度ずらして積層し,さらに接着剤の影響などもあって,このデータ以上に硬く重いように思います。
その他,中庸なものとしては「イタヤカエデ」などがあります。 同じく中庸なものの仲間である「チーク」に比べて安価かもしれませんが,バーチ等硬質なものに比べて「こちらの方が優れている」と言う保証も無さそうです。 材料をゲンコツ叩いてみると,材料の性質が少しわかります。 重く硬い材料は,硬く高い「コンコン」と響いたような音がします。 逆に柔らかめの材料では,響きが少なく極端に言えば「ボッボッ」という感じです。
使用したことはありませんが面白そうな材料としては「シナ」と「アピトン」を交互に重ねた「シナアピトン合板」があります。 アピトンの硬く重い性質と,柔らかく内部損失が大きいシナとの相乗効果がうまく機能すれば,静かで張りのある音が得られるかもしれません。 しかし,中途半端な結果となることも想像できます。 いずれにしろ「やわらか系」の音になるのではないかと思います。 積極的に使いたいと言うわけではありませんが,機会があれば試してみたいものです。
単板の大きいものはいずれも高価ですから入手可能でも使用しないとは思います。 それ以上に,単板は経年変化による「反り」「割れ」が発生しやすいので注意が必要です。 合板,もしくはあまり厚くない集成材を,木目が交差するように重ねて使用する等の配慮が,末永く使用するためには必要なことです。 どうしても単板,ということであれば「カリン」でしょうか。 カリンは,極めて安定していることから「三味線の胴」に使用されています。 ただ,「楽器に使用されているから音が良いだろう」と言うような短絡的考えは危険だと思います。 要は,木材に振動の一端を担わせるのか,それとも振動させないようにするのか,で考え方が全く変わってくるからです。