デフラクションホーンの構造

ここでは,デフラクションホーンがどのような構造になっているかを解説します。

左図は,デフラクションホーンの断面を上から見たところです。 デフラクションホーンのスロート側には「フィン」と呼ばれるものが配置されています。 フィンには,音道を区切って指向性を改善する目的と,音道の面積が一定割合で増加するように面積をコントロールする目的とがあります。 左図の場合には音道が5分割されていますが,必ずしも5分割でなくてもOKで,実際には4分割,3分割というものもカットオフ周波数が高いものに見受けられます。 カットオフ周波数を高く取ってフィン厚が薄くなってしまうような場合,フィン厚を稼ぐため4又は3分割とする場合があるわけです。 フィンが少ない方が製作が容易だから,と言うような消極的な理由では良いものは出来ません。
左図は,ホーンを横から見たものです。 フィン部分の音道の上下間隔は一定であり,フィンの厚さによってのみ音道断面積の変化を形成していることがわかります。 一方,フィンが無くなった部分から先は,左右ではなく上下の変化で音道面積の増加を得ています。
そのような構造になっていますから,実は左右の壁面は左図破線のように直線が設計値となっています。 でも,実際には実線で示すように,左右の壁面にカーブがついているものも見られます。 これは「直線だとエッジ部分で反射が起きる」という事を嫌ってのものです。 でも実際に測定してみると,どちらの特性にも顕著な変化は認められません。 それならば,作り易い「サイドストレート型」の方が価格的にも有利ではないかと思っています。 サイドストレート型の方が,構造的にもしっかりとしたものになることも有利な点です。 但し,見かけはサイドカーブを付けたものの方が「高級感」はありましょう。 チョッと見た感じでは,「ラジアルホーン」と「バイラジアルホーン」との違いが意識されるためであると思います。 なお,サイドカーブを付ける設計には「デフラクションホーン設計値のまま左右の壁を削る」と言う方法と,「フィンのあるところまで正規のデフラクションホーン,その先はバイラジアルホーン」と言う方法とがあります。 後者の方が正しい作り方でしょう。 その場合,上下の開きは正規のデフラクションホーンより少なく(薄く)なります。
フィンはこんな感じで並んでいます。 「フィン鳴き」などと言って,フィンの先端部分が音波によって振動し雑音を発生する,と言うようなことがよく言われますが,そんなことはありません。 上下の壁面にしっかり接着されるものですから,そう簡単に空気振動ごときで共振するものではありません。
スロート部分を見たところです。 ホーンの主要材料はラワンの合板です。 良く「硬い単板の方が音がよい」と言われますが,単板は経年変化による狂いが出やすいことと,入手に難があること,高価なこともあって,個人的には適当ではないと思っています。 まだ集成材の方が適当でしょう。 ラワンの合板はこのような用途の加工には適しておらず,製作は困難ですが経年変化が少ない事と,安定的に入手できることで優れていると思います。
これは木製のスロートアダプタ。 さすがに細かい精度を要求されるので,合板の使用は無理です。 しかし,一枚板では強度に問題が発生するため,薄板を何枚か重ね合わせて使用しています。 この点はフィンにおいても同様です。 このホーンのカットオフは480Hzですが,円から角に変換するアダプタの厚さはこの程度です。 金属製のものが売られているようですが,長さが設計値よりかなり長めに思え,使用しておりません。 また,ねじ止めのための穴も,物によってはかなりガタがあるようです。
ドライバを装着したところです。 重い材料の方がホーンの共振を起こしにくく優秀である,と言う事が一般認識です。 でも本当にそうでしょうか。 カリンのような重い材料でも,ラワンのような材料でも,空気から比べれば充分に密であると言えます。 すなわち,音楽のように変化する帯域の広い空気振動エネルギーは木材には伝わりにくい,と言うことです。 ホーン鳴りの原因は,主にドライバの振動が直接伝わるためではないでしょうか。 それが原因であれば,確かに材料の重量に反比例して不要振動が低下するはずです。 でもそんなことなら,高価な(例えば)カリン材を使う代わりに,ドライバの防振対策にお金をかける方がよほど安上がりではないかと考える次第です。
要注意は「薄型のデフラクションホーン」です。 作る側から考えますと,薄型の方が上下のカーブを削る手間が省け,圧倒的に楽です。 薄くするためには,左右の開口が必然的に(不必要に)広くなり,フィンは大きく厚くなります。 すなわち,カーブを左右の広がりで稼ぐわけです。 これが一概に悪いとは言えないと思いますが,どう見ても「ハイパボリック」や「エクスポネンシャル」のカーブにはなっていないように見えるものもあります。 それでも音は出ますが,広帯域で良質な音を得ることは難しいのではないでしょうか。

使用材料について

ムクの一枚板:
割れや変形が発生する確率が高く,長期使用に耐えないことがあります。 安定的入手も困難で,高価なことも欠点として挙げることができるでしょう。 昔は材料段階で何年も寝かせ,割れや変形を起こした後の枯れた材料を切り出して使用することが普通でしたが,最近ではそのような手間をかけたらコスト的に見合いません。 木目が一定なので,カンナやノミの使用が楽である点が作る側としては好まれます。 木目が美しければ,工芸品の趣も出るでしょう。

集成材:
一枚板に比べると変形は少ないのですが,一般に同じ木目方向に集成されているため,変形が起こらないとは言い切れません。 合板のように,直角に重ねて使用する等の配慮が必要でしょう。 ただ,その場合カンナやノミの使用に難が出てきます。

合板:
変形が極めて少なく,長期使用に耐える材料であると言えますが,見かけは良くありません。 1枚の板の中に,硬い部分とやわらかい部分とが混在し,欠けやすいのでカンナやノミ使用に難があります。 表面の仕上がりが悪いため,表面の修正作業が大変です。 しかし,外見を気にしなければ「入手性」と「経年変化」そして「価格」には有利な点があります。 3層で構成される「ランバー」と呼ばれるものは,工作の容易性には優れますが,経年変化と強度に難があります。